2016年5月に文庫版として刊行された知念実希人著の作品です。
■あらすじ
色彩を失った画家。 死に直面する人間を未練から救うため、患者たちの過去の謎を解き明かしていくレオ。 しかし、彼の行動は、現在のホスピスに思わぬ危機を引き起こしていた―。 天然キャラの死神の奮闘と人間との交流に、心温まるハートフルミステリー。
人間の世界では死神と呼ばれる存在が、ゴールデンレトリバー「レオ」として人間界に降りてきて人間の未練を一つ一つ解消していくというお話でした。
最初は心というものがあまり理解できていなかったレオが、未練を解消するべく人に干渉することで少しずつ心というものを理解し、思いやりの気持ちを持ち何かできないかと考えるまでになる様子にとても楽しく読ませていただきました。
大きな病気をしもう自分が助からない、死を待つばかりとなった時、自分は何を思うのか。
少しでも長く生きたいと考えるのか。
それとも、残り僅かな人生を豊かにしたいと考えるのか。
そんなことも考えさせられる内容でした。
この物語の中では、未練があると天界にはいけず、そのまま魂は一定の期間を過ぎた後消滅してしまうということになっています。
本当のところは未練があるとどうなってしまうのでしょうか。
自分は、いざ死というものを目の前にして、執着するほどの未練が果たして生まれるのかなと読み終わった後、物思いにふけってみたりしました。
知念さんの作品は、お医者様でいらっしゃることもあり病院関連の作品が多いです。
しかし、難しい医療用語を使わずに素人でも分かりやすい医療現場の様子を表現されているのが毎回素敵だなと思いながら読ませていただいています。
今回もホスピスが舞台となっていましたが、レオは人間界に関心がなさ過ぎて時代的には明治、大正、昭和初期頃の人間界の知識しかない設定です。
そのため、医療機器・用語やその他のカタカナ用語も「なあすすてぃしょん」や「どっぐふうど」などと聞きなれないというような表現がされており、それもまた読み手にわかりやすい表現ができている要因の一つなのかと感じました。
レオは人間から見ればただの犬ですが、中身は人間の言葉のわかる霊的な存在ですから、妙に人間っぽいふるまいをしてしまったり人の言葉に反応してしまったりする瞬間が度々見られます。
人の言葉がわかってくれたらもっと楽しいのにと、誰しもが犬や猫に対して感じたことがあるのではないでしょうか。
それでも、人の言葉に妙に反応する犬や猫がいたなら。
もしかしたらそれは、あなたに何かを伝えるために霊的なものが化けた仮の姿なのかもしれません。
この話を最後まで読んだら、そう感じざるを得ないそんな物語です。
もしご興味がありましたら、読んでみてはいかがでしょうか。