トーキョー・クロスロード/濱野京子

2008年11月にポプラ社より刊行された濱野京子著の作品です。

あらすじ

「別人に変装して、ダーツに当たった、山手線の駅で降りてみる」これが休日の栞の密かな趣味。そこで出会ったかつての同級生、耕也と、なぜか縁が切れなくて…。

 

こちらは、児童向けの作品として刊行されただけあり、青春ストーリーという感じが色濃いです。

しかし、大人でも感じる″どうしても惹かれてしまう”という感情がメインになっているように感じました。

主人公は、人を放っておくということができないお人よしな面、誰にでも合わせることができる八方美人な面を持ちながら、10代にはありがちな「本当の自分とは」を感じながらもやもやとした日々を過ごしている様子でした。

もやもやの原因の一つは恋愛のことなのですが、もう会うことはなくなってしまったその相手に対しだいぶ感情も薄れてきたかという矢先に再開してしまうのです。

この世の中、ずるい人や八方美人とは違う人たらしな性格の方が少なからずいます。

そういう人間には、惹かれないようにしようと思えば思うほど惹かれてしまうものです。

児童向けにしては、そういった微妙な感情が濃く描かれているように思いました。

周りを見渡せば、いくらでも優しく自分を包んでくれるタイプの人間はいるのに、その逆をいく荒々しいタイプの人間にどうして惹かれてしまうのでしょう。

必ずしもではありませんが、そういう風に過ごしてしまった過去をお持ちの方、現在進行形ではまってしまっている方も少なくないのではないでしょうか。

そんな方は、この作品を読んだらとても共感ができるかもしれません。

その荒々しさの中に、10代の無鉄砲さや無垢さが感じられ、いじらしいけれど素敵な作品に仕上がっています。

冒頭の「そこはかとなく悲しい」は誰かの心に宿る言葉。

文庫版には新海誠さんが、作品について感想を書かれていらっしゃいますので、そちらも併せてどうぞ。